2023-09-03

内野隆文 展 ー星のロザリオー

内野隆文展 星のロザリオ

画家・内野隆文の個展「星のロザリオ」を開催いたします。

新作「肖像」シリーズを中心に、具象・抽象の垣根を超えた絵画作品が一堂に会します。

遠方のお客様にもお楽しみいただけるよう、会期初日より店頭・オンライン同時開催とさせていただきます。

開催概要

2023年9月24日(日)-10月9日(月・祝)

open 11:00~18:00

closed 9月29日(金)・10月5日(木)

作家在廊日 9月24日(日)・10月1日(日) その他の日は決定次第追記いたします

オンラインショップページ → こちら

※ 店頭・オンラインショップ同時開催(一部オンライン対象外)

※ オンラインショップでは、複数点のご購入で送料を1点分におまとめ可能

内野隆文について

アーティストページをご覧ください → こちら

個展に寄せて

「また一緒に星を見ましょう」

流星の日、彼女はそう言って、僕らは別れた。
古い砦が残る村はずれの丘で。
遠くにぽつりぽつりと家々の窓から黄色い明かりがもれている。
少しだけ冷たい風に草花と彼女の髪がゆれていた。
月のない夜、星たちは歌うようにまたたいて、僕は村を出た。

季節はいつも足早に過ぎ去って、1年がたち、10年が過ぎても、けっきょく彼女に会うことはなかった。
若いころには永遠のように感じた10年という響きが、今ではあっさり消費してしまう現実的な単位に思える。
職場に向かう道路はいつも渋滞して、個性のない建売住宅が延々と続いている。
家と車がひしめく景色は、風吹きすさぶ荒野より荒涼として見える。
多すぎる信号が渋滞の列をさらに長くした。

憂鬱で始まった朝に、じわじわと苛立ちが積もって午後になる。
あらゆることに不平を言うのが好きな先輩が、自分の小学校時代の出来事を話し始めた。
キーボードを叩きながら適当に相槌を打っていたけど、途中から面倒になって無視することにした。
昔はもっと愛想よくしていたが、いつの間にか仕事の話しかしなくなっていた。
冗談を言って人を笑わせたり、本当の気持ちを語り合ったり、普通に会話する事でさえ、ひどく無駄に思えた。
やり過ごすだけの日々が、始まっては終わり、また始まって、膨大な瓦礫となって無意味に積み上がっていく。
何の予感もなく、何の期待もなく。

目覚まし時計がいつも通りに鳴った。
夢を見ていた気がする。世界でいちばん美しい星空の夢だった。
その手ざわりにもっと浸っていたかったが、そうもいかない。
すでに新しい一日はスタートしたのだ。
顔を洗って髭をそり、朝食をトーストとドリップコーヒーで済ませて、ワイシャツに着替えた。
そして手に取ったネクタイがたまらなく嫌になり、そのままゴミ箱に捨てた。
ワイシャツもスーツもゴミ箱に放り込んでしまうと、少し気分がマシになった。

一度も仕事を休んだことはなかったけれど、もう職場に向かう気はしない。
仕事は忙しくなるばかりで、勝手に休んでは同僚たちに迷惑をかけてしまい申し訳ないが、どうでもいいという気がした。
同僚という言葉に何か大切なものが欠けて乾いた感じがするのは、降りてしまえばもう会うことのない、たまたま同じ舟に乗り合わせただけの関係のせいかもしれない。
いつも不満ばかり口にしていた先輩を思い出して、そっとお世話になったお礼を言った。
決して悪い人ではなかった。

窓辺へ行くと雨が降り出していた。
予報では全国的な大雨になるらしい。
乾いた灰色のアスファルトが、漆のように黒々と染まっていく。
雨は遠い夏の匂いがした。

私が求めているのは、食卓のようなものかもしれない。
素朴な固いパンに一杯のワイン、チーズとジャガイモでもあればいい。
傘型ランプのオレンジ色の光と静かな会話。
ささやかに乾杯して今日一日の出来事を語り合いたい。
そんな夜を何千回も繰り返して、年を取っていくのだ。

今夜、星は出ない。
私は雨雲を見上げ、その先に今もあるはずの星を思った。
あの日見た沢山の流れ星を思った。

内野 隆文

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