ジョルジュ・ルオー「『ミセレーレ』より 廃墟すら亡びたり」
詳細
作家:ジョルジュ・ルオー
作品名:『ミセレーレ』より 廃墟すら亡びたり
年代:1926年
技法:ヘリオグラビュール・シュガーアクアチント・ドライポイント 他 ed.450
イメージサイズ:57.5×44.5cm
額サイズ:89×74×5.3cm
サイン:版上有
プライス:Sold Out
作品について
20世紀フランスを代表する画家、ジョルジュ・ルオー。
宗教主題を中心に、道化師や踊り子といった苦悩する人間をモチーフにした数々の名作を残しています。
こちらは、版画集『ミセレーレ(MISERERE)』に収録された一枚です。
『ミセレーレ』とは、ラテン語で「憐れみたまえ」、すなわち「慈悲」を表す言葉です。
当初、父の死をきっかけに1912年頃から制作された第一部を「ミセレーレ」、1914年の第一次世界大戦勃発以降に取り組む第二部を「戦争」と名付け、二部構成から成る全100点の連作として構想されていました。
その後、ルオーと専属契約を結んでいた画商ヴォラールの発案で、1922年から1927年にかけて完成した白黒銅版画全58点に厳選し、パリの刷り師・ジャックマンの手により500部印刷されることとなります。
ヴォラールは自身が没するまで作品を手元に置き続けますが、戦乱やヴォラールの死を経て、彼の遺品の中から発見された版画にはいくつかの欠損・破損が生じていました。
そのため、1948年になってようやく450部の限定枚数にて刊行されるに至ったのです。
本作「廃墟すら亡びたり」は、戦争がテーマの第二部の扉絵に当たります。
上部に掲げられた「GUERRE」は、フランス語で「戦争」の意。
中央に光彩を放つキリストが浮かび、アーチ状の空間の下には武具を身につけた兵士が描かれています。
戦いに疲弊し命を落とす兵士、そこに神の慈悲は届くのだろうか。
第一次世界大戦を目の当たりにし、まさに「廃墟すら亡びたり」と言わざるを得ないほどの絶望を感じたルオーが、作品を通して問いかけたかったことなのかもしれません。
『ミセレーレ』で、画家は人間の孤独や寂しさ、不条理や愚かさをあぶり出し、避けられない死と、キリストによる救済と向き合います。
その強烈な精神性を表現するため、銅版画の様々な技法を組み合わせて作られた作品群は、ルオーの画業における最高傑作と言われています。
色彩のない白と黒のみの世界だからこそいっそう強固に感じる、魂を直接震わせる力強さ。
戦争、宗教、生死…。
苦しみと救いという壮大なメッセージを、時代を超えて考えさせられる名作です。
画面左下には、ルオーの版上サインと、原版の制作年がございます。
立体的な飾りのある幅4cm程の黒金の額に、ルオーのネームプレートが添えられています。
重厚で古典的なデザインの大変上質な額が、崇高な作品世界をしっかりと受け止めている印象です。
100年近い年月を経た版画のため、シートにはヤケが見られます。
また、年代物の額にも小傷やスレなどの経年変化が生じています。
展示する上でほとんど気にならない程度かと思われますが、古い作品の持つ特性として予めご理解くださいませ。